抗血栓療法下における歯科観血処置について
高齢化社会でワーファリン・パナルジン・小児用バッファリン等の抗血栓療法で使う薬を飲みながら歯科治療が出来るのだろうか???
医療技術の進歩と生活環境の変化により医療を取り巻く環境は大きく変化している。
最近の『世界保健統計(WHO)』によると日本人の平均寿命は男性79.3歳・女性85.9歳となり、WHO加盟国中1位になったのね。(2013年現在)ただし『平均寿命』は寝たきりの人なども含めた年齢ごとの死亡率から算定される為WHOは2000年に介護を必要としない心身ともに自立して暮らす事の出来る期間を『健康寿命』として提案した。
これによると日本人の『健康寿命』は2010年で男性70、6歳・女性は75、5歳となり健康で活躍できる年齢との隔たりが9年以上有る事になる。
統計によると2012年に総人口の内65歳以上の人口の割合(高齢化率)は、23、1%で、日本はこれから20年かけて超高齢化社会になると言う。
『健康寿命』を越えた人口は現在の約10%から2030年には20%を超えると予想されている。
従って有病者人口が増えるに連れて循環器疾患を持つ患者も増え抗血栓療法を受ける患者が歯科を受診する事が増加して行く事が予測できる。
1957年Zifferらが抗血栓凝固剤を継続服用する患者の抜歯に際して後出血した為、抜歯時の抗血液凝固剤服用中止を推奨した報告がある。
また反面1963年Marshallらのワーファリン中止時や再開時に血栓形成が亢進するという報告もある。
臨床の場で明確な指針が欲しい。この時期より約50年と言う長い年月が過ぎてやっと2010年に『抗血栓療法下での歯科における抜歯処置に関して』と言うテーマで日本有病者歯科医療学会、日本口腔外科学会、日本老年歯科医学会の3学会で『科学的根拠に基ずく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン』が作成された。
現在では、観血的処置のうち開業医が遭遇する事の多い抜歯については抗血栓療法継続下での処置が望ましいと言う報告を良く見る。
JADA(THEJOURNALOFTHEAMERICANDENTALASSOCIATION)米国歯科医師会ジャーナルによるとワーファリン療養中の患者の歯科治療におけるPT-INRと歯科治療の関係を報告している。
PT-INRとは、プロトロンビン時間国際標準比の事で正常値を1.0とする。
これによるとPT-INR<3.5であれば、印象採得・スケーリング・歯周ポケット掻把術・普通抜歯・多数歯抜歯および1本の埋伏抜歯が可能であり、PT-INR<2.5であれば、歯肉切除手術・歯根端切除手術・少数歯の歯肉剥離掻把手術および1本のデンタルインプラント埋入手術が可能であると述べてる。
(HemanWW,KonzelmanJL,SutleySH:Current persupectives on dental patients receiving coumarin anticoagulant therapy.JADA 128:327-335,1997 より)
医科での抗血栓療法によるコントロールの目安とされるPT-INRが2~3と言う事を考えると観血的歯科治療処置はPT-INR<3で行う方が術後出血によるトラブルのリスクが少ないと言える。
2004年日本循環器学会から出された『抜歯時の抗凝固療法・抗血小板療法について』のガイドラインによると
(1)抜歯はワーファリンを原疾患に対する最適治療域にコントロールした上でワーファリン内服継続下の施行が望ましい。
(2)抜歯は抗血小板薬内服下での志向が望ましいと言われているが、2008年矢郷らの『抗血栓療法患者の抜歯をどう認識しているか』と言う医師116人に対するアンケート調査の結果によると抜歯時にワーファリン投与を減量・休止する医師は約70%、抗血小板薬を休止する医師は約86%とかなり多くの医師が休薬を指示しており、さらに驚く事に61%の医師がワーファリン継続下で抜歯をする歯科医師が居る事すら知らないと回答していた。
(矢郷香・朝波惣一郎:抗血栓療法患者の抜歯・臨床Q&A服薬を継続した安全な歯科治療.医学情報社19-42、2008より)
まあPT-INR<3での口腔外科処置であれば止血に的確な処置を施せば抗血栓療法下でワーファリンを休薬せずに抜歯などの歯科的観血処置を行う事ができるのだねぇ。